風景保存

 
 
 

中之作の歴史を紐解く

 
中之作は歴史のある港町ですので古い建物が今もたくさん残っています。
 
商業港として栄えた時代の歴史を少し振り返ってみたいと思います。
延享4年(1747)に小名浜が幕府の直轄地となると、中之作は会津、二本松などの年貢米の取り扱いや、四国から塩を輸入し中通りまで運ぶ「塩の道」の起点として栄えます。
 
当時塩問屋をしていた商家が現在の清航館の建物です。
 
安政2年(1855)に片寄平蔵が内郷の弥勒沢で石炭を発見すると、馬の背に石炭を積んで運び中之作で船積みしたと言われています。
また元治元年(1864)には、八重の桜で有名になった新島襄(同志社大学の創立者)が、アメリカへ密航(留学)するため函館を目指し、その途中で中之作に寄港しています。
新島襄の日記には「仙台屋」に泊まったとあります。
 
江戸後期から商業港として繁栄した中之作は、その後漁港となり現在に至ります。
昭和50年代から日本の漁業は様々な規制を受け急速に衰退し、中之作も例外ではありませんでした。
漁業の衰退で観光化に踏み切った小名浜と違い、観光化に向けた開発は行われなかったため
古い港町の痕跡が今日まで保存されてきた側面があります。
 
古い建物はなぜ今日まで残ったのでしょう。
新築好きの日本人なのに、高度成長期やバブル経済期にも解体せずに住み続け今日に至るわけですから偶然残ったと考えるのはかなり無理があります。
現存する古い建物には、良い材料を全国から集めたり、腕の立つ職人に丁寧な仕事を依頼したり、当時としては破格の予算を注ぎ込んだり、堅牢な建物を欲した特別な思いが語り継がれています。
贅沢品だから残るのではなく、建物を住み継ぐ意思がしっかり受け継がれているから残されたのだと考えるべきです。
 
中之作プロジェクトでは、古い港町の風景を次の世代に伝えるために、この町にふさわしい風景を形づくる建物を増やしたいと考えました。時間の経過に磨かれ輝きを増した建物、周辺の景観に配慮した建物、周辺に潤いを与えるような植栽や外構、中之作には地域を彩る多くの建築物が存在します。
 
 

この美しい港町の風景を後世へ残すために

 
港町の風景とは個人の建物の集合体であり、個人レベルで建物を守らなければ少しずつ風景は劣化してしまいます。
震災被害とは別に、少子高齢化などの社会問題を抱えるこの地域では、今現在も少しずつ建物が失われ続けていて、このままでは人口が減る一方です。
これらの問題を防ぐためには、個人の建物を次の世代に受け継ぐ仕組みが必要だと考えました。
どんな仕組みでしょう。例えば「家は家族が住み継ぐ」という常識を疑うことです。
 
清航館の修復とは、家族が維持を諦め解体を決めた建物を、家族以外の者が受け継いだ例です。
しかも、住宅をまちづくりのための施設として活用しているので「人」が住まない家となっています。
「家族が住み継ぐ」方法以外を提案し、「家族以外が住まないで使う」ことで保存に成功しています。
 
修復自体をイベントとし、大勢の参加者とともに完成させた建物には、
参加者の思いが込められた部分が随所にあり、所有者すら手を加えることが躊躇われる建物となっています。
これは建物の強さと言うことができます。
所有者が簡単に解体を決めることができる時代に【壊されにくさ】を持つ建物は、
耐震性能などの構造強度とは別の次元で強さを持ち合わせていると考えることができます。
 
港町の風景を次の世代に残すには、建物を受け継ぎ壊されにくくすることが重要です。
家族が建物を守ることを諦めつつある地域で、
建物を受け継ぐ新しいルールの必要性を理解していただくために、
清航館は選択肢の一つとして機能しています。
 
中之作プロジェクトでは、古い港町の風景を次の世代に伝えるために、この町にふさわしい風景を形づくる建物を増やしたいと考えました。
時間の経過に磨かれ輝きを増した建物、周辺の景観に配慮した建物、周辺に潤いを与えるような植栽や外構、中之作には地域を彩る多くの建築物が存在します。
そういった建築物を対象に「中之作景観賞」を定期的に開催していく予定です。
 
 
 
 

空き家バンク設立へ

 
 中之作プロジェクトにも移住を検討している方からの問い合わせが増えていますが、
紹介できる賃貸物件がない状況です。
建物解体を決める前に保存する理由を増やす仕組みづくりが必要だと考えています。
 
 今後この地域で高齢化が更に進むと、深刻な空き家問題が発生します。
それらの多くは解体され多くが駐車場となるでしょう。
人が住まない期間が長いほど建物は傷みが酷くなり、
住めるようにするために費用が余計にかかりますので、のんびりできる話ではありません。
 
しかし、賃貸住宅として入居者を募集しただけでは地域コミュニティーの再生にはなりません。
地域の【空き家を資源に変える】取り組みです。
 
 地域の空き家の状況を調査、把握する活動を行いました。
空き家バンクの設立の準備を進め、以下の仕組みづくりを目指しています。
 
・この町に住んで欲しい人を選ぶ仕組みづくり
・住民参加により空き家修復を行う仕組みづくり