長野市の「門前暮らしのすすめ」空き家見学会に行ってきました。

長野市の「門前暮らしのすすめ」空き家見学会に行ってきました。

 

スタッフの久保田です。

一昨日、僕の地元である長野県は長野市の善光寺門前町へ遠路はるばる赴き、「門前暮らしのすすめ」空き家見学会に行ってきました。

長野市はいわきからだと北関東道を経由し、車で5時間半ほど。善光寺を中心とした門前町が形成されており、長野県の県庁所在地となっています。

 

 

街のシンボルである善光寺。

 

全国的に見ても門前町が県庁所在地となっているのはここ長野市だけだと言われているようですが、確かに他のまちではなかなか見られないような落ち着いた雰囲気の街並みが形成されているように感じられます。

 

門前町の宿坊が集まるエリア。

 

新旧の建物が入り混じりながらも、どことなく統一感があり気品を感じます。

僕は同じ長野県の中でも、どちらかというと城下町である松本の方で育った身なのですが、長野は松本に比べるとやはり「上品」な街という気がします。古くから信仰の場として栄えたこともあってか、街自体が心を穏やかにしてくれるような雰囲気があります。

一方、長野市は全国の他の地方都市と同様に空き家の増加が大きな課題になっている街でもあります。

長野県は全国の都道府県の中でも空き家率が高く(19.8%で全国2位,H25)、長野市でも空き家率は14.5%(H25)にのぼり、上昇傾向となっています。
(参考:https://www.city.nagano.nagano.jp/uploaded/attachment/304389.pdf

そんな長野の街で空き家の見学会や相談会、さらには門前暮らしの発信等を行っているのが「門前暮らしのすすめ」のみなさんです。

 

「門前暮らしのすすめ」ホームページ。

 

2009年から活動を開始して以降、100軒を超える空き家に新たな命を吹き込み、現在でも20〜30軒の空き家の鍵を預かっています。ものすごいボリュームです…

この「門前暮らしのすすめ」の、文字通りキーマンとなっているのが、空き家見学会の案内役を務められていた倉石智典さん。

倉石さんはご実家の工務店を継いだのち、空き家の面白さに目覚め、祖業の工務店のほかに建築設計、さらには不動産取引までを一括して請け負う会社を立ち上げ、数々の空き物件の再生を手掛けられてきました。

(参考:https://nagano-citypromotion.com/nagalab/special10_01/)

 

倉石さんの案内で始まった空き家見学会は善光寺西之門の「ナノグラフィカ」からスタート。「門前暮らしのすすめ」の活動はこの「ナノグラフィカ」を拠点に行われています。

さっそく外に出ると、倉石さんはまず町割の説明から始めます。聞くと、いわゆる「門前町」と呼ばれる地域は現在の”長野県”の名称の元となった旧長野村のエリアを中心に、複数の地区から成り立っているのだそう。そして、町割ごとにそれぞれ特色ある産業が生まれ、近代になるまで引き継がれてきたのだと説明がありました。

倉石さんはこうした説明を街区を移動するたびにされていました。僕たち参加者は、その一つ一つの説明を現在の風景に重ね合わせることで、街の解像度を徐々に上げていきます。

 

現在は暗渠となっている川。昔はこの川の水を使った醤油屋や染物屋が川筋に立ち並んでいたそう。

 

骨組みだけの建物は染物屋の干し場として使われていました。

 

街を巡るなかで、実際に数件の空き物件の中にもお邪魔しました。それぞれの物件は持ち主の方が住まわれていた当時の状態のままで残されており、家具などの家財がたくさん置かれていました。

倉石さんは、「普通の不動産仲介であればこうした家財類は片付けてから中を見てもらうが、あえてこのままで残すことで、この物件で商売や生活をするイメージを膨らませてもらいたい」とおっしゃっていました。今まで紹介した物件の中には実際に残された家財からヒントを得て、リノベーションの設計をした物件もあるそうです。

また、こうした物件は倉石さんが一軒一軒面白そうな物件を見つけては所有者さんに直接会って鍵を貸していただいているのだそう。こうしたFace to Faceのやりとりがあるので、物件一つ一つの歴史や所有者さんが紡いできた想いも知ることができます。

 

こちらは以前は農機販売店だったという物件。

 

当初は自然石を束石にしていたところが、増改築を繰り返し、コンクリートに埋められている箇所も。こうした箇所から建物の歴史が読み取れます。

 

また、倉石さんが代表を務める「マイルーム」では建物の設計から不動産の仲介、さらには施工までをワンストップでできる体制を整えているため、街に数ある空き家の中でもどの物件であれば利用可能であるかを見極めることができるうえ、契約の成立から実際の運営までの流れをていねいに説明することができるのだとおっしゃっていました。倉石さんはこうしてワンストップで建物と所有者、利用者をマッチングする人を”仲人”にたとえ、今後こうした仲介をできる人材を全国各地に広めていくため、人材育成のプログラムも行っていく予定だそうです…!

今回参加した門前町の空き家見学会は月に一度の定例開催で、僕が参加してきたのは第112回(!)だったのですが、実は毎回ほとんど同じルートを巡るのだそうです。それでも、毎回参加者が異なったり、季節が異なったりするのでそれぞれの回で新たな発見があると言います。

また、この空き家見学会では、物件を巡っている時は賃貸や売買の条件面の話はせず、もっぱら街や建物の歴史を説明に終始します。
こうすることで実際にこの建物を使用した時のイメージを膨らましてもらい、物件に「一目惚れ」した人だけに後々相談会で条件面や必要な改修の説明をするのだと言います。さらには、事務所や店舗として使用する際には実際の契約の借主に事業計画書を提出してもらい、大家さんにお見せするところまで徹底します。
そうすることでミスマッチなく、物件を持続的に活用することができるのだと仰っていました。

 

街を一巡りしたのち、再びスタート地点の「ナノグラフィカ」まで戻ってきました。

 

 

空き家の見学会が終わると、ここでいったん解散となり、このあと希望者には個別の相談タイムがあります。先ほども書いたように、見学会の中では個別の物件について条件面の説明はありませんでしたが、ここではじめて具体的な家賃、改修費などの話ができるようになります。

今回は物件の利用についての相談はありませんでしたが、この時間を使わせていただいて倉石さんにこれまでの活動の経緯などを伺ってきました。

倉石さんたちは10年以上前から空き家再生の活動を行っていますが、こうして100軒以上にものぼる物件を手掛けてこられたのは、工務店業を中心にして、設計・施工・不動産仲介までを一括して請け負い、建物を紹介できることが大きいとおっしゃっていました。

そもそも、建物には建築士・工務店・不動産仲介など様々な職能が細分化されすぎていて、空き家の再生ではそのいずれかの利益を取ろうとすると他の分野で損をしてしまう構造になっているようです。

しかし、倉石さんは工務店が祖業であるからこそ、現場ならではの感覚がわかり、さらに設計や仲介という立場で新たな使い手とのコミュニケーションも円滑に行うことができます。

倉石さんはこうして空き家と所有者、使用者を結ぶ人材を、「仲人」と呼びます。「仲人」は従来のような市役所の空き家バンクでは対応できなかった個別具体的な物件の仲介にも対応でき、時には建物の歴史や所有者さんの事情もていねいに説明しながらあらたな使い手へと建物をつなげられます。

これからはこうした建物の「仲人」の人材が各地に生まれてくると空き家の再生事例が増えてくるのではないかとおっしゃっていました。

また、倉石さんは空き家の再生はまず自分で現場に飛び込み、設計や現場での工事をすることから始まるとも言います。空き家には現在の法律には適応できない作りがあったり、複雑な相続体系が絡んでいたりと、実際に関わってみないと分からないことがたくさんあります。しかし、そうした事例に実際に関わることで、専門分化された職能の壁を超えることができ、今までは困難と言われていた空き家の再生も実現可能になるのだということでした。

 

3時間ほどの空き家見学会でしたが、実際に街を巡り、建物を訪ね、お話を聞いて、とても学びの多い時間にすることができました。ここで学んだことを、これから中之作でも実践できるよう皆さんと一緒に頑張っていきたいと強く思った一日でした!

改めて、ご案内いただいた倉石さん、ありがとうございました!

 



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